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2026年 04月 05日
名刺を初めてもらったとき、私はそれをしばらく眺めていた。 白くて、薄くて、自分の名前が整った書体で印刷されている。見慣れたはずの名前なのに、そこに載っているそれは、どこか他人のもののように見えた。 「社会人になったんだ」 そう自分に言い聞かせても、正直なところ実感はなかった。とはいえ、周りの先輩方はなぜか『社会人とは何たるや』を語りたがり、突然とんでもない分量の仕事説明をしたりする。メモは必須とはやし立て、最初はゆっくりでいいから・・・と思っていることと逆のことを言いだしたりする。まったく、新社会人に対する風当たりは厳しい。たぶんこの理不尽さが、新社会人の最初にぶち当たる壁ってやつなんだろう。 理想と現実の境界線が曖昧になり、自分の中の甘えた気持ちが消えていくのがわかる。 四月。入社して一週間が過ぎた。朝は早く、満員電車に揺られ、決まった時間に席に座る。パソコンを立ち上げ、来るはずもないメールを確認し、上司の指示を待つ。やっていることは単純だった。資料の整理。議事録の作成。数字の入力。だが、その一つひとつに、妙な重さがあった。 「これでいいのか」 何度も思った。 大学では、何をするにも起承転結みたいなものが大事だというのが常識だった。なぜそう考えるのか、なぜその結論に至るのか。けれどここでは、「やるべきだからやる」という場面が多い。自分がどのピースを担当しているのかは、さほど重要なことではないようだ。 ある日、私は資料の一部に疑問を持った。自分の担当した部分ではなかったが、どうも数値の整合性が取れていない。そこで私は上司に確認した。 「ここ、数字が合っていないと思うんですが」 上司は一度画面を見て、軽く頷いた。 「ああ、そこは気にしなくていい」 「でも・・・」 「全体の流れが大事なんだよ」 面倒くさそうに答えるその姿に、私は閉口した。間違っているものを、そのままにする。それが正しいことなのか、正直理解できなかった。 帰りの電車で、ぼんやりと窓の外を見ていた。流れていく街の灯り。大学生の頃は、そんな移動時間は友人と話していた。何でもない話をして、笑って過ごしていた。それが、急に遠く感じられた。 週末、久しぶりに大学の友人と会った。 「どう?仕事」 軽い調子で聞かれる。 「まあ、それなりに」 私は曖昧に答えた。本当のことを言えば、よく分からないというのが正直なところだ。何が正しくて、何が間違っているのか。自分は本当に必要とされているのか。このままここにいて、よいものなのかどうか。 帰り道、一人で歩きながら思いに耽る。大学を卒業したとき、何かが始まると思っていた。でも実際には、終わったもののほうが多かった。 自由な時間。 何者でもない、曖昧なままでいられる余白。 決断を先送りにして、決めなくてもいい日々。 それらは静かに消えて、代わりに「役割」が与えられた。会社の歯車のひとつとして、枠の中で最大限の利益を出すことを求められる。このまま、少しずつ形成されていくのだろうか。気づかないうちに、自分の輪郭が固定されていくのか。 昼休み、私は一人で外に出た。近くの公園に座り、何も考えずに空を見上げる。春の空は高くて、雲がゆっくりと流れていた。 何も変わっていないものもある。空の高さも、風の匂いも、時間の流れも。変わったのは、自分の立ち位置だけだ。 会社に戻ると、また同じ作業が待っている。 完璧ではない資料。 曖昧な指示。 それでも、私は仕事を続けなければならない。パソコンを開き、もう一度その数字を見た。少しだけ考えてから、修正案を別ファイルにまとめる。提出するかどうかは分からない。でも、見過ごさなかったという事実だけは残る。今は、それでいいのかもしれないと思った。 すべてを変えることはできなくても、自分の中の判断だけは手放さなければ、きっと私は私のままでいられる。 名刺を取り出して、裏側を見た。何も書かれておらず真っ白。そこには、まだ何も決まっていない余白が残っているように思えた。表に印刷された名前よりも、その空白のほうが少しだけ自分に近く感じた。 #
by atukim
| 2026-04-05 09:21
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2026年 03月 29日
卒業というのは、少しだけ実感が遅れてやってくる。 卒業式の最中、壇上で名前を呼ばれても、それが終わりの合図だとは思えなかった。卒業証書を受け取る手はいつも通りで、礼をする角度も、きっと何度も練習したものと同じだったはずなのに、その動作の一つひとつが、どこか他人事のように感じられた。 本当の意味での卒業は、そのあとにじわじわと訪れる。 教室の机の中を空にしたときや、靴箱の名札を外したとき、そういう何でもない瞬間の中に、ゆっくりと染み出してくるものなのだと思う。 教室には、いつもより少し長い時間、誰もが残っていた。写真を撮る者、笑いながら昔話をする者、何かを言いかけてはやめる者。それぞれがそれぞれのやり方で、この場所での最後の距離を測っているように見えた。 私は窓際の席に座ったまま、その様子を眺めていた。 黒板には「ありがとう」と誰かが書いた大きな文字があり、その周りに小さなメッセージがいくつも重なっている。三年間の時間が、そこに集約されているようでもあり、逆にあまりに収まりきらないものの断片のようにも見えた。 一人、また一人と教室を出ていく。そのたびに、空席が増えていく。 残ったのは、私を含めて数人になった。残っていることに特別な意味はなくて、ただ「帰る理由が見つからない」だけだった。 そろそろ校舎を出るように先生に促され、昇降口を出ると空気は思ったよりも柔らかかった。三月の終わり、まだ冬の名残はあるものの、風の中には確かに春の気配が混じっている。 校門の前で立ち止まり、私は振り返るべきか、そのまま歩き出すべきか迷った。 結局、振り返って学校を見渡した。 見慣れた校舎は、いつもと何も変わらなかった。窓の並びも、屋上の柵も、夕方の光の当たり方も、すべてが昨日までと同じだった。ただ、私がそこに戻る理由だけが、もうないだけ。 門を出ると、道は二つに分かれている。右は駅へ、左は住宅街へ。これまで何度も通った道なのに、その分かれ道が、今日はとても寂しく見えた。 どちらを選んでもいい。どちらに進んでも帰れるはずなのに、なぜか「今この瞬間の選択には大きな意味があるんだ」と思った。 私は駅への最短ルートを選択した。小さな花屋の前を通る。店先には、色とりどりの花が並んでいた。その中に、まだ固い蕾の桜の枝が混じっている。咲いている花よりも、その蕾のほうが印象に残った。 これから咲くもの。それは、まだ形を持たない未来に少し似ている。私みたいだなと思った。 電車に乗り、見知らぬ人たちの中に紛れ込む。制服の自分が、少しだけ場違いに感じた。今まで感じたことがない感覚に包まれた。向かいの席には、新しいスーツに身を包んだ人が座っている。それぞれが、それぞれの門出を抱えているんだ。私もその一員。窓の外の景色が流れていく。見慣れた街並。 そのとき、ふと思った。別れは、終わりではなく、ただの境界なのだと。こちら側と、あちら側を分ける、目には見えない線。その線を越えるとき、人は立ち止まり、少しだけ振り返る。そして、前を向いて歩きだす。大げさな決意や、劇的な変化は必要ない。ただ一歩、足を踏み出すだけでいい。 電車が駅で停まる。ドアが開き、人が乗り込んでくる。この中の誰かと、これから言葉を交わして仕事をし、生きていかなければいけない時が来る。私も大人の仲間入りをするのだ。 春はいつも、少しだけ遅れてくる。別れのあとに、静かに追いついてくる。だからきっと、今感じているこの空白も、きっと満たされる時が来る。きっとそうなんだ。 電車の揺れに身を任せながら、私は窓の外を見つめた。まだ咲いていない桜の枝が、風の中で小さく揺れている。 そう、今はそれだけで十分だ。
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by atukim
| 2026-03-29 08:41
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2026年 03月 22日
こんばんは、福山雅治です。今日はね、ちょっとすごい話をしますよ。 つい先日、家で一恵ちゃんが見つけちゃったんですよ。カセットテープ。今どきね、カセットですよ。どこから出てきたと思います? 引っ越しのときに、もう何十年と開封していない僕専用のタイムカプセルと化したダンボールを、彼女が「これ、必要ないでしょ?」って勝手に開けるんです。 「とりあえず取っとく箱」ってあるじゃないですか。あれ、人生で一番危険な箱だってこと、男子諸君ならわかるでしょ?それを断りもなく勝手に封印を解いちゃうなんて、どうかしてるぜって感じでしょ。でも一恵ちゃんには絶対に逆らえない。 とはいえ開けると「なんでこんな物、大事に閉まっておいたんだろう」っていうものしか入ってなかった。 で、その箱の底に、一本だけ入ってたんですよ。このカセットテープが。 ラベルにね、マジックで書いてある。 『1987 デモ』 いやあ・・・これ、恐怖しかないですよね。なにが恐怖って、“若い頃の自分の声”ほど恐ろしいものはない。昔のライブ映像とか見ても「ああ、若いなあ」くらいで済むんだけど、純粋な音源だけってのはね、ストレートすぎるので逃げ場がないのよ。 で、家にカセットデッキなんてないから、スタッフに聞いたんですよ。 「これ再生できる人、今の時代いるのかな?」 そしたら音楽チームの若い子が 「カセットって・・・あの、映画の小道具みたいなやつですか?」 って言ったんですよ。 いやいやいや。これはおじさんの青春そのものだから。 で、結局ね、音楽スタジオの物置の奥のほうにカセットデッキが残ってて。それで再生してみたんです。 カチャッ、ウィーン・・・って音がして。流れてきたのがね、まあ・・・これがひどい。いやほんと、自分で言うのもなんだけど。 音源はギターと声だけ。曲もね、全然完成してなくて。ギターのテンポも妙に速いし。で、歌詞がね、これまたすごいんです。ちょっと読みますね。 「君の瞳に映る 僕の未来は まだ名前のない星」 いやあ、ほんと恥ずかしい。こんなところで聞くんじゃなかったって思いました。スタッフ全員、黙っちゃってるし。あの空気を表現するとしたら、お葬式の開会5秒前みたいな空気。都会には「アイツ早死だったなーガハハハ!」って感じの空気を読めない親戚のおじちゃんみたいな人はいないからね。 でも不思議なんですよ。しばらく聴いてたらちょっと泣きそうになってきて。その頃の自分って、もちろん売れてないし。お金もないし。未来がどうなるかなんて、全然わからない。でもね、歌ってる声だけは妙に自信満々なんですよ。 これが、若さなんでしょうね。怖いもの知らずっていうか。未来の自分がどうなるかなんて全然考えてない。多分その頃の僕は 「絶対売れる」 って思ってたと思うんですよ。根拠ゼロで。でもね、その根拠ゼロの自信がないと、多分この仕事って運すらも掴めないんですよね。まあ実際売れちゃうわけですけどね。 とはいえ大人になると、だんだんわかってくる。 「そんな簡単じゃない」って。若い頃ってさ、それを知らないから突っ走れるわけです。 もとい、最後まで聴いたんですよ。曲が終わって、ガサガサとテープを止める作業をしようとしている感じがあって、そのあとでね、小さい声であの頃の僕が言うんです。 「よし、これでいこう」って。18歳だった僕がね。 それ聞いた瞬間ね、思ったんですよ。ああ、この人。今の僕より勇気あるなって。 で、スタッフが言ったんです。 「これ、ラジオで流します?」 いやいやいや。流すわけないでしょ。こんなの僕の黒歴史なんだから。 でもね、これは残しておこうと思って。だってね、もし将来、70歳とかになってさ、また聴いたら、今の自分の声と比べて「ああ、若かったな」って思うでしょ。 人生ってね、多分そういうことの繰り返しでしょうね。今が一番年取ってるから、振り返るといつも“あの頃は若かった”になる。その気持ちを思い出せることこそが、とても大事なことなんじゃないかな。 だからね、リスナーの皆さん。もし家に古いカセットテープがあったら一回聴いてみてください。たぶんね、恥ずかしいとか、笑えるとか、ちょっと泣くとか。色んな気持ちが蘇ってくるはずです。まあ、その全部かもしれないですね。 ちなみにね、問題が一つあって。そのカセットのラベルの裏に、もう一行僕の直筆でメッセージが書いてあったんですよ。すっげー小さい字で 「絶対売れるから捨てるな」 って。いやあ、18歳の自分、わかってるじゃん。今や押しも押されもせぬ、日本を代表する紅白大トリを飾る歌手よ。いやいや、ほんとまあ、こんな気持ちになれるなら、捨てなくてよかった。だってね、こうして今、ラジオのネタになってるんだから。 人生ってね、たぶんそういう残材みたいなものが大事なんですよ。一生懸命頑張って、心から信じて疑わなかったこと。その時の思いが凝縮されて閉じ込められたカセットのような、そんな形になって残っていることに泣けてくるし、その奇跡に感動する。 はい。 ということで、今日は真剣にくだらない話をしてみました。 今日の一曲。 カセットテープに入っていた曲、みんな聞きたくない?スタッフを完全に沈黙させたのは当時の僕であって、今の僕ではない。それは払拭させなければなりません。そして僕にとってこのテープは黒歴史かもしれないけれど、これを聞いている誰かの心には響くかもしれない。当時の音源はヤバいから、今日は生歌でいっちゃうよ! 福山雅治で『君の瞳の中の僕の未来』 #
by atukim
| 2026-03-22 08:22
| 妄想の巻
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2026年 03月 15日
世界の地図は、もう完成していると全人類が信じていた。衛星は地球の隅々まで観測し、海底の地形さえ精密に描き出している。未踏の場所など残っていない。我々人類の科学技術は進化し続けているのだから。 だが、航海者たちの間で昔から噂されている場所があり、それだけが例外だった。 『霧囲み群島』 太平洋にあるようだが、存在については誰も確認できていない。奇妙なことに、その位置を示す座標はどこにも記録されておらず、衛星写真、映像でも確認できない。日本に残る古い航海日誌には「霧の壁の塊」と書かれているものがあるという。 もちろん科学者たちは相手にしなかった。迷信だと。人工衛星はいくつも地球を回り続けているが、もし島があるならとっくにその姿を確認しているはずだ。 発見のきっかけは、ひどく偶然だった。海洋物理学者の藤崎遥は、海面温度の長期データを解析していた。それは衛星観測のデータで、地球全体の海流の変化を調べる研究だった。 その中で、奇妙なデータ差異があることに気づいた。とある海域だけ、数十年分のデータが微妙に歪んでいる。歪んでいるといっても、専門家の目から見なければわからないほどの誤差である。温度の平均値は合っている。だが細かい揺らぎに、どうしても違和感があった。 遥は計算をやり直した。ノイズ除去を外し、生データを検証した。そこには、ぽっかり空いた“揺らぎの空白”があった。まるでその場所だけ、我々の干渉を拒否しているかのように思えて仕方がなかった。 遥は衛星画像を調べた。普通に見ると、ただの海である。だが時間差で重ねると、わずかなその映像にズレのような違和感がある。雲の影が、そこで異様に途切れている時もある。海流のパターンが、その一点だけ計算ができない。 遥は震えた。そこに、何かある。 遥は上長にその旨を報告すると、調査船が派遣されることになった。 遥はその船に乗船して、データを取り続けた。GPSは正常に動く。レーダーにも異常はない。だがその”霧囲み群島”の座標が近づくにつれ、奇妙なことが起きた。 凝視していなければわからないほどの変化ではあるが、コンパスが微妙に動き、通信に乱れが生じた。海面は不自然なほど静かになり、やがて鏡面仕上げのような絶景が広がった。 すると船の前方に濃い霧のような塊が現れた。ただの霧ではない。壁のように切り立っていて、我々を阻むようにグルっと一周しているようだ。どうやら目的地はこの霧の中らしい。 会議が行われて、霧の中に突入する決定が下された。 船が霧の中に入った瞬間、機器がすべて止まった。しばらく進むと霧を抜けたが、機器類は復旧しなかった。そして、我々は目の前の広がる光景に息を飲んだ。 霧に囲まれた中央に、小さな島々が浮かんでいる。浮かんでいるという表現が正しいかどうかはわからないが、船のように漂っているように見えた。 黒い火山岩の岸。濃い緑の森。空には見たことのない形の鳥が旋回している。ガラパゴス諸島を思わせる、孤立した生態系。もちろん地図には存在しない。 私は浮足立つ気持ちを抑えるのに必死だった。きっと同船した人たちは皆一様に同じ気持ちだったと思う。新発見の瞬間なのだから。 島に上陸すると、さらに奇妙なことがわかった。 動物たちは人間を全く恐れなかった。カメのような生き物は牛ほどの大きさがあったがとても機敏に動き、羽のない鳥が砂浜を走っている。森には一様に青い翅を持つ昆虫が群れを成して飛んでおり、私が普段見慣れている猫のような生物もいた。 どの生物も進化の過程で枝分かれのようなものが、地球の既知の生物とは少し違って見えた。 研究者たちは歓喜した。新しい生態系の発見であることは間違いなかった。 遥は、別の調査に動き出していた。島の中央に、円形の湖がある。その水面が、先ほど海が鏡面のようだった様子と瓜二つで滑らかだった。 風が吹いても波が立たない。遥はその湖の水を手ですくった。その瞬間、頭の奥に奇妙な感覚が走った。見たことのない風景が浮かぶ。見慣れぬ都市のようなもの。空に浮かぶ構造物。構造すら想像できない機械のようなもの。 しかしながら、それはほんの一瞬で目の前から消えた。不思議な体験だった。 夜になり、野営していたテントの中で遥は、ある仮説を立てていた。 この群島は、衛星に写らないのではない。写っているが、認識できないのではないか。衛星画像には島が映っている。だが人間の認識が、そこを海だと補完してしまう。視覚の盲点を狙って、何者かが認識をずらしている。ではなぜ今、我々はその島に上陸し、認識できているのか・・・。 翌日、研究チームは湖の底を調査した。潜水ドローンが映像を送る。そこにあったのは、巨大な構造物だった。表面はとても滑らかに加工された金属のようで、円盤状の形をしていた。間違いなく人工物だ。 チームの人間は皆が息を呑んだ。宇宙人の遺跡かもしれないという者もいた。だが遥は、奇妙な親和感を覚えていた。巨大な構造物の表面は、どこか見覚えがある。大学で学んだ材料工学の、最先端をいく半導体のそれではないか。そう、あまりにも似すぎている。 そのとき、湖面が揺れた。水が静かに盛り上がり、空中に水の球体が表れた。そして球体の中に、映像が浮かんだ。地球の大陸の配置が現れて、各所に赤い光が点滅する。都市、海、山脈。遥はそれを瞬間的に理解した。 この群島には生態系は存在しない。観測装置なのだ。地球を監視するための。 映像の中に文字が現れた。それは間違いなく我々日本人が使用する言語である。 「観測期間:三万年」 「文明成熟度:閾値到達」 研究者たちは凍りついた。そして湖の水面が、ピカリと一度光った。 「観測終了」 島全体が震えた。森が揺れ、鳥が飛び立つ。海の向こうで、霧の壁が崩れ始める。 遥は突然のことに動揺しながら、この異常さを総合的に判断してある結論にたどり着いていた。 『この島は、地球の生態系を研究するために置かれた装置なのではないか』 生物も、環境も、すべて実験。そして観測が終われば、装置は回収されるか、または全て破壊される。 湖の底の円盤がゆっくり浮上した。島の地面に亀裂が生じ始めた。山が崩れ、その中から巨大な機械のような骨格が現れる。 その場で動けずにいる我々の目の前で、水の球体に、もうひとつの映像が現れた。 小さな文字で 「追記」 揺れる地面に手をつきながら、遥は息を止めた。 「観測対象:地球文明」 「観測者:未来人類」 どうやらこの一連の装置は、宇宙人なんかのものではない。人類自身が、未来から、悠久の過去に設置して独自の生態系の進化を確認する観測装置のようなものではないか。そして我々が辿り着いてしまった今、役目を終えて観測期間が終わったのではないか。 湖の球体が強く光った。 「結果:人類、自己観測成功」 球体に8000秒のカウントダウンをする文字が表れた。我々はそれを島消滅の合図と受け取り、全調査員の島退避を実施して、全身全霊をもって島から離れた。およそ2時間後に、島はゆっくりと海の底へ沈んでいった。 数日後、遥は衛星画像を確認すると、その海域の歪みが消えた。そこには、ただの海が広がっていた。 遥は仮説を論文にまとめる準備をしはじめた。あの島は、未来人が我々現代人に示した『未来を伝えるゆりかご』だと。そしてもう一つの事実も。 もし未来の人類が、観測装置を過去に対して何度も送り出しているとしたら・・・。我々自身が実験の対象で、生かされているモルモットなのではないだろうか、と。 #
by atukim
| 2026-03-15 08:22
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2026年 03月 08日
人のやさしさは、最初とても静かなものだった。誰かが困っていれば手を差し伸べ、落とし物を拾い、席を譲る。見返りを求めず、名前も残らない。それは社会の隅で、目立たず呼吸していた。 ところがある日、そのやさしさは「可視化」された。 やさしい行為をするとポイントがつく。数値になり、ランキングになり、履歴として保存される。「やさしさ可視化法案」と呼ばれたその制度は、人々の善意を“促進”する目的で導入されたらしい。 最初は、街が少し明るくなった。ゴミを拾う人が増え、困っている人への声かけも増えた。人々は以前より、よく笑うようになった。正確には、笑顔を誰かに向けるようになった。 私は通勤途中、毎朝同じ交差点で立ち止まる。そこには、杖をついた老人がいる。彼が横断歩道を渡る時、周囲の人間が一斉に手を伸ばす。 誰が先に支えるか。誰がより長く付き添うか。誰がより「高得点のやさしさ」を獲得するか。老人は次第に、歩く速度を落とすようになった。渡りきるまでの時間が長いほど、人々は競い合うように手を差し伸べるからだ。 やさしさは、奪い合いになった。 電車内でも同じだった。席を譲る者は、相手を見ない。ポイント表示だけを見る。「妊婦」「高齢者」「怪我人」。優先度が高いほど、数値は跳ね上がる。 人は人を助けているのではなく、条件を満たした対象を処理しているようだった。 私はある日、会社の後輩に言われた。 「先輩、今日やさしさ少なくないですか?」 冗談のように言われたその一言が、胸の奥に残った。 やさしくなければ、社会的に“価値が低い”と見なされる。評価が下がり、信用が落ち、昇進にも影響する。やさしさは義務になり、義務は競争になり、競争は欲望になる。 街には、やさしさ専門家が現れた。 「最短で高得点を取る方法」 「効率のいい善行マニュアル」 「感情を消して疲れない支援術」 感情はノイズとされ、迷いはロスと呼ばれた。 ある日、雨の中で倒れている人を見かけた。周囲には大勢の人がいた。だが誰も近づかない。理由は単純だった。「スコア対象外」だったのだ。 私は一瞬、立ち止まり、スマートフォンを確認した。対象外。ポイントは入らない。 それでも、私は近づいた。理由は説明できなかった。たぶん、数値になる前の記憶が、体に残っていたのだと思う。 その人は、何度も「すみません」と言った。私は「大丈夫ですよ」と答えた。それだけだった。 ポイントを確認すると、私は評価を極端に落としていた。非効率な行動として、記録に残った。けれど、なぜか温かい気持ちだけがずっと続いていた。 やさしさは本来、誰かに見せつけるものではなかったはずだ。欲しがるものでも、積み上げるものでもない。それは、誰にも気づかれない場所で、静かに終わっていい行為であるはずだ。 社会は今も、やさしさを求め続けている。だがその手つきは、もう“与える”形をしていない。 掴み取り、奪い合い、満たされないまま、さらにおかしな方向へ進んで皆が評価を欲しがっている。 私は今日も交差点を渡る。目の前には新しい大きな看板が立っている。 やさしさ、足りていますか? #
by atukim
| 2026-03-08 08:18
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